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訴訟段階の対応

交通事故によって発生した損害が確定した後、被害者は、加害者(または任意保険会社)との間で、示談交渉による解決を図っていくことになります。(民事調停を含む)

被告の選択

通常の場合、自動車損害賠償保障法(「自賠法」)が適用になる、運転者と運行供用者を被告とすることになります。

これに対し、自賠法の適用がない物損事故の場合には、原則として運転者のみを被告としますが、使用者責任(民法715条)を追求できる可能性がある事案では、支払能力を考慮して使用者もあわせて被告とすべきです。

ちなみに、示談交渉の際に保険会社が出てくる場合は、運転者又は運行供用者(「加害者」)は、任意保険会社に事故の報告をしているため、任意保険会社を被告にする必要はありません。
裁判所から加害者に訴状が送達されれば、加害者は、任意保険会社に報告するからです。

しかし、示談交渉において任意保険会社が登場しない場合は、加害者が任意保険会社に事故自体を報告していない可能性があります。
そうすると、被害者が加害者を訴えて勝訴したとしても、任意保険会社は関知していないので判決の内容を認めようとしないことがあります。
そこで、事案によっては提訴段階から任意保険会社を被告に入れて、後々支払いを拒絶できないようにしておく工夫が必要です。

訴訟の流れ

訴状提出後、被告による答弁書が提出されて、主張を裏付ける証拠(主として物証)が提出されます。

有力な証拠の一つとして、事故状況を撮影したドライブレコーダーがあります。

しかし、元々ドライブレコーダーは、それぞれ独自のソフトとセットになっているのでソフトとともにデータを提出しないと裁判官は見ることができません。最近では、データを一般的なデータ閲覧ソフトのデータに変換できる形式のものが発売されているようですが、事前に確認が必要です。

相手方が自主的にドライブレコーダーを提出しない場合は、裁判所に勧告してもらい、それでも相手方が頑なに提出を拒絶する場合は、通常は文書提出命令により対応することになります。

損害賠償の範囲・損害金額

訴訟において激しく争点となり得るのが、損害の有無およびその金額です。

損害の事実については被害者側で具体的に立証しなければなりません。

一般的に損害の性質として3つに大別されています。

  1. 積極損害(治療費、交通費、看護費、修理費、弁護士費用など)
  2. 消極損害(休業損害、後遺症による逸失利益、死亡による逸失利益など)
  3. 慰謝料(傷害慰謝料、後遺障慰謝料など)

「弁護士費用」についてですが、日本では、訴訟制度上の弁護士費用の敗訴者負担制度がないので、勝訴しても相手方に弁護士費用を請求することは原則できません。
しかし、不法行為訴訟においては、弁護士費用の一部を不法行為の「損害」として認めているため、交通事故の訴訟においても、弁護士費用の一部を「損害」として請求できることになります。
実務上、請求金額の約10%を弁護士費用として加算することが多く行われています。
ただい、保険会社に対する保険金請求や保険会社から請求される求償請求は、そもそも不法行為訴訟ではないため、弁護士費用の請求ができません。

「修理費」については現実に支出した費用が補償対象になることが原則です。
塗装が一部損傷した場合に加害者がどこまで損害を賠償すべきかという問題があります。
もちろん、普通の塗装であれば一部塗装か全部塗装かという問題につきますが、特殊塗装の場合には、さらに特殊な問題が発生します。
この点、過去の判例では金メッキを施したバンパーが破損した事件で、東京高裁は、『金メッキは、バンパーの効用を増すものではなく却って事故時の損害を拡大させるもの』であるとして修理代金の半分しか請求を認めませんでした。このように、特殊塗装で費用が高額になるものについては、裁判所としては抑制的に判断する考えがあるのではないかと思われます。このように修理費は、現実に支出した費用がそのまま補償対象になるわけではないことに注意が必要です。

さらに、事故がなければ将来得られたであろう利益、すなわち「逸失利益」は、後遺障害が発生した場合、「基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間」という計算式で計算されます。
このため、事故前の収入状況が逸失利益の算定に大きな影響を与えることになります。

保険会社が被害者の事故直前の給与額(年収360万円)を基準として2000万円の提示をした事案において、裁判所は、被害者が過去に事業所得として年600万円以上の収入を得ていたこと、事故直前に当時勤務していた会社を辞めて事業を起こす計画を立てていたこと、事業資金も準備できていたことなどを斟酌し、被害者と同年代の平均収入約660万円を基準として合計4400万円の逸失利益を認めました。
このように、基礎収入の認定によって賠償額が大きく変化し得るので、基礎収入に争いがある場合には専門家に相談することをお勧めします。

各種給付と損害賠償金の充当関係

損害の金額を確定するにあたって、各種給付と損害賠償金への充当関係についてさまざまな判決があります。

例えば、

自賠責保険における被害者請求の受領金を、損害賠償金の遅延損害金に優先的に充当できるか?
被害者請求の受領金を遅延損害金に優先して充当することを認めています。(最高裁16年12月20日判決)
交通事故の被害にあった場合、被害者は示談までの間に加害者からの一部支払いを受ける一方で、労災保険等の公的給付を受ける場合がありますが、これらの給付を受けた時点で発生している損害賠償金の遅延損害金に充当してよいのか?
自賠責保険から支払われた給付金については遅延損害金への充当を認めました。(最高裁平成16年12月20日判決)
労災保険からの休業給付・障害一時金については、遅延損害金への充当を認めず、事故日に元本に充当したことにするべき(最高裁平成22年10月15日判決)
障害基礎年金・障害厚生年金については口頭弁論終結時までに支給されまたは支給が確定していた分までは、遅延損害金への充当を認めず、事故日に元本に充当したことにするべき(最高裁平成22年9月13日判決)
遺族年金の遅延損害金への充当について、被害者の方が死亡し、遺族が労災保険の遺族補償年金や国民年金・厚生年金から遺族年金を受け取った場合において、給付金を提訴時までの遅延損害金に充当できるどうか?
遺族年金の給付金はその性質上、損害賠償金の元本に充当すべきであり、遅延損害金に充当することはできないと判断しました。不法行為時に填補されたものとして扱われるため、年金を受け取るまでの遅延損害金も発生しないことになります。(最高裁平成27年3月4日判決)
無保険車傷害特約で被害者が保険会社に請求できる部分について、加害者が任意保険に加入していない場合、被害者は、自分の保険の無保険車傷害特約に基づき自身の保険会社に裁判を起こすことがありますが、この場合に自賠責保険や障害基礎年金の受領分を損害賠償金の元金から控除すべきか、遅延損害金にまず充当すべきか?
自賠責保険や障害基礎年金の受領分を元金から控除すべきであるとしました。そのうえで、被害者が無保険車傷害特約に基づき請求を起こした場合において、保険会社が保険金の支払いが遅滞に陥ったときは、年6分の利息を付して保険金を支払わなければならないと判断しました。(最高裁平成24年4月27日判決は、)

被害者参加制度

被害者参加制度とは、犯罪被害者が刑事裁判に参加する制度です。

対象犯罪には、危険運転致死傷罪、自動車運転過失致死傷罪、業務上過失致死傷罪が含まれているため、交通事故の死亡事案における被害者遺族は、被害者参加制度を利用することができます。

被害者参加人は、①公判期日への出席、②検察官への意見陳述、検察官の説明義務、③証人尋問、④被告人質問、⑤事実関係や法律適用に関する意見陳述をすることができます。

愛知県では、平成21年~平成25年までの間、被害者参加制度の対象となる事件数は2844件でした。
うち実際に被害者参加制度が利用されたのは、128件でした。
罪別にみると、最も被害者参加の割合が多かったのは、危険運転致死事件で12件の事件のうち、被害者が参加したのは3件でした(参加率25%)。

なお、刑事裁判になった自動車運転過失致死事件は521件であり、愛知県の交通事故の多さを物語っています。